SESSAME代表 飯塚悦功
新年あけましておめでとうございます.

昨年12月23日の天皇誕生日に「信頼を得る方法」をテーマとするワークショップに参加し,パネル討論のコーディネータを務めました.「信頼性」については,品質を専門にしていましたから馴染みがありました.しかし,「信頼」という概念は,工学的な意味での信頼性とはずいぶんと異なります.人を信頼したり,機械やシステムを信頼する条件は何か,あらためて考えさせられました.

社会心理学分野の研究によると,「信頼」の条件は,@価値(観),A能力,B誠実・公正,とのことです.@価値(観)とは,価値,価値観,価値基準,重視事項が,自分と同じか同意できるときに信頼するという意味です.A能力とは,信頼の対象となる分野の専門能力が高いとき信頼するということです.そしてB誠実・公正とは,何らかの意図や魂胆が見えて公正と思えない,誠実さを感じられないとき信頼しないという意味です.

私にとっての収穫は,「信頼」に関するこうした社会心理学の整理された知見を短時間で知ることができたことです.なかでも,「信頼には価値観共有が重要であることと,信頼に満ちた社会は低コスト・高効率の社会になり得ること」が分かったことが大きかったです.さらに,今後の課題が,個々の組織や機械に対する信頼に加え,「ヒューマン・マシン・システム」や「社会技術システム」に対する信頼を研究することにあることを知ったことも収穫でした.

日本の高度経済成長は,工業製品の大衆化に支えられました.すなわち,良質廉価な工業製品の大量生産・大量販売による経済活性化,そして輸出により世界第二の経済大国にまでのし上がりました.いま時代は移り,世界の経済地図は大きく変化しました.少子高齢,成熟経済社会にあって,わが国が,良くできた社会技術システム(エネルギー・原子力,鉄道,交通,医療などの分野での,巨大技術・合意形成の社会システムの設計・確立・運用・改善の全体)の輸出による経済基盤確立へと成長していかなければならないとき,社会の合意形成,つまりはこうした巨大システムに対する社会の「信頼」が重要と再認識しました.

この「信頼」を支える技術として,ソフトウェアの重要性に疑問の余地はありません.人と機械,人とシステムを同調させて機能させようとするとき,その性能もフィーチャーも信頼性もソフトウェアによって左右されます.これらの集合体としての社会技術システムが信頼できるものになるかどうかを左右するのはソフトウェアと言ってよいでしょう.

そうです.いまやソフトウェアは,産業インフラ,社会インフラなのです.インフラの重要性は,その上で機能する経済・産業・社会の質と効率を左右してしまうことからも明らかです.近年の組込みシステムの巨大化,複雑化,それゆえの重要性の増大に鑑みるに,組込み技術者・管理者は,この職業が“profession”と呼ぶに相応しいことを再認識すべきです.

“profession”を辞書で引いてみると,「知的職業(弁護士,医師など),(専門的)職業」とあります.実は,これだけでは,この言葉の本当のニュアンスは分かりません.欧州では“profession”と呼ぶに相応しい職業が3つあると言われていました.それは,弁護士(法律家),医師,神父・牧師(聖職者,宗教家)です.いずれも市民・社会に対して重大な影響(法,命,宗教)を与え,それゆえ治外法権的に守られ,通常は自治的懲戒制度を持つ職業です.単に“知的”であり“専門的”というより,もっと重大な意味があるのです.

ソフトウェア技術者・管理者もまた,この意味でのprofessionであると言われたら,こそばゆいですか.現代社会における組込みシステムの重大性ゆえに,組込み技術者・管理者は,こうした意識を持つべきではないでしょうか.

SESSAMEは,組込み技術者・管理者が,こうした意識を共有し,将来に向かって踏み出す場でありたいと思っています.そのために,SESSAMEは,設立以来,どのような人材を育てるべきか考え,時代の要請に応じて,様々なコンテンツを開発・提供してきました.議論をし,コンテンツを開発していく過程で,メンバ自身が成長していくことができました開発されたコンテンツには,組込み技術者・管理者に期待される人物像を語り,自ら考え,積極的な参加を求めるものが数多くあります.

現代の経済社会は,残念なことに,組込み技術者・管理者のすべてを,上述したような意味でのprofessionとまではとらえていません.それを意識した組織化ができているわけでもありません.SESSAMEは,人材育成のための技術コンテンツの開発・提供ばかりでなく,そうした「profession意識」を醸成する場でもありたいと思っています.

このコミュニティに参加してみませんか.

SESSAMEは,昨年,「UML2.0状態マシン図設計セミナー〜ソフトウェアに変換可能な仕様書がきちんと書けるようになろう〜」のセミナーを,一般向けと講師育成セミナーの2回開催しました.講師になることを目的として受講したり,自ら講師となってセミナを開催することにより,さらに理解も深まり,同士を増やすことができます.実際に,受講後に社内でセミナーを開催した方が複数いらっしゃいました.

SESSAMEの継続的活動ともいえる,各地の高等専門学校との連携によるセミナ開催,教材提供を,香川などで行いました.e-Learning教材も,引き続き提供しています.ET,ESECなどのイベントにも継続して出展しています.

また,ETロボコンやWRO Japanといった,子供向け,若者向けのイベントも支援しています.単に未来のエンジニアを育てるだけでなく,エンジニアリングの視点を持ってもらうことが重要だととらえています.昨年は特にWRO Japan のすそ野を広げる活動として「お茶の水ロボットクラブ」を立ち上げ,地域の各コミュニティ,企業のご支援をいただきながら活動を始めました.

本年も,コミュニティに参加したい,何かを真剣に学びたいという方がいる限り,活動を進めてまいります.継続的に,演習やグループワークを重視したセミナの開発・実施などを行います.過去のセミナコンテンツを,皆さんが利用できるようにパッケージ化する試みも進めます.e-Learningコンテンツを利用しやすい形態に作り変える計画も進行しています.それに合わせ,新しいコンテンツの開発も進めてまいります.

SESSAMEのメンバからは,これらの活動を進めるにあたって,多くの方と濃密はディスカッションができることこそが参加のメリットだ,との声が出ています.ディスカッションの場を広げ,より参加しやすい取り組みをしていきたいと考えています.

皆様のますますのご発展をお祈りするとともに,今後とも皆様のご支援を賜りたく,どうぞよろしくお願い申し上げます.

本年が良い年でありますように,心から祈念いたします.




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